• テキストサイズ

【ONE PIECE】不可思議で愛しい日々よ

第1章 悪魔のより糸は解けない


七海の後ろ姿を見守りながら、サボは焦がさないようにゆっくり、じっくりと魚を掌の上で炙っていく。今度は、今までで一番上手に焼けた。休暇を取ってここまで来た甲斐があったなとサボは思った。ちゃんと無人島にたどり着けたし。こういうお人よしなところが、七海のいいところであり、今回の計画の要だった。うまくいきすぎて笑えてくる。バカでお人よし、弱いくせに自分から騒動の中に飛び込んでいく。そういうところは昔からちっとも変わらない。全く、気が気じゃない。

でも、最近昔のように笑わなくなった。貼りつけたような、偽物の笑顔で愛想を振りまくことが増えた。まあ、諜報員っていう仕事をしているんだから、しょうがねェと言えばそれまでだけど。前はすぐに泣くやつだったのに、近頃は涙の一雫だって見せやしない。愛想笑いをしている七海を見る度に、なんというか、無性に泣かせてやりたくなった。とは言うものの、おれも仕事が忙しくて、ここ一年くらいは七海とろくに話もできなかった。やっと一緒の任務になったんだ。この機を利用しない手はない。七海が恋人ができたと嬉しそうに報告してきたのが、確か半年前だったか。今頃、こいつのカレシのところに手紙が届いている頃だろう。ちょっと素性を調べてみたら、政府の息がかかった人間だった。いただけないなあ、そういうの。こいつは鈍いから、きっとまだ気が付いていないだろうけど。こいつが傷つく顔は見たくないし、勝手に消えてもらおう。それに、「頑張って」と本人から言われたら、頑張るしかないよな。

サボは鼻歌を歌いながら、次の魚を手に取った。今度はもっとうまくやれる。大丈夫、火加減はもう覚えた。

最後の光を盛大に空にばら撒いて、夕陽が完全に地平線に沈んだ。さて、あのかわいいウサギをどうやって罠に誘い込もうか。

サボの策略など思いもよらない七海が、波打ち際から小走りで戻ってきた。七海は、サボの持つ魚を見て目を輝かせた。

「あ、それ美味しそう」

サボは何食わぬ顔で、七海を手招きする。

「いるか?」

「いい。もうお腹いっぱいだし。サボ君食べなよ」

「少食だよな、お前。おれはまだまだ腹ペコなのに」

「うわー、底なし」

そう言って笑う七海の横顔を見て、サボはそっと舌なめずりをした。
/ 15ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp