第1章 悪魔のより糸は解けない
文句を言ってやろうとして顔を上げたら、サボ君が悪戯が成功した子どもみたいな顔で笑うから、怒る気力が霧散していった。
そう言えば昔こういうのよくやったなぁ。なんだっけ。えーと、そうだ、椅子取りゲームだ。サボ君は弱かったけど。ぱちぱちと炎の爆ぜる音が耳に心地いい。幹部になってから、サボ君はより忙しくなってしまって、前のように一緒に遊んだりすることもなくなってしまった。それに、最近は作ったような笑顔が多くなった。まあ、役柄的には仕様のないことだし、私だって諜報員という立場上作り笑いは必須だけどさ。でも、私は知っているのだ。ルフィという弟の話をするときだけは、素でデレデレしていることを。
「ブラコンだよねサボ君」
部屋に弟の手配書を貼っているのは有名な話だ。
「弟が好きで何が悪い」
サボ君がむっとした顔で反論してきた。おっと、地雷かな?わくわくしながら言葉を続ける。
「何事にも適切な距離というものがあってね」
「誰が決めたんだよそんなの」
「えー、お上と世間さまじゃないの」
「おれたちはそれをぶっ壊すために革命軍にいるんだろ」
サボ君がドヤ顔でそう言い切った。
「おお、なんかもっともらしい方に話を持って行った」
「照れる」
「せめて照れてるフリを・・・はっ!デジャヴュ!」
デジャヴュの余韻に浸っていた私に、サボ君が何か黒い塊を差し出した。
「魚焼けたぞ」
「ありがとう。ってあれ?これ炭じゃない?」
「焼きすぎた」
サボ君は悪びれることなく言い放った。取り敢えず受け取ってはみたが、もう完全に魚の面影はない。かわいそうに。申し訳ないことをした。それをくるくると色々な角度から眺めるうちに、手が煤で真っ黒になってしまった。
「サボ君のバカ。なんのためのメラメラの実なの」
「少なくとも魚を美味しく焼くためではないな」
サボ君が炭にかじりつきながら言った。ガリゴリという焼き魚からはあり得ない音が聞こえてくる。
「今日の夜は覚悟しててよね。寝首かいてやる。こう、ズバっと」
手で首をかき切るジェスチャーをすると、サボ君が噴き出した。口から黒い煙が上がっている。大丈夫なのだろうか。
「おれの寝こみを襲うって?」
そういって笑うサボ君の手の上を、炎が蛇のように這いまわっている。サボ君が次の魚に手を伸ばした。魚が一瞬で真っ赤に染まる。