第1章 悪魔のより糸は解けない
「えー?あんまり無茶すんなよ七海。鮫が出てもおれは助けに行けねェからな」
サボ君が右手を持ち上げて、ぱくぱくと噛みつくような仕草をした。
「ちょっとなんでそういうこと言うのサボ君。やめてよ」
「おれは心配なんだよ。七海はすぐに無茶するから」
サボ君はそう言いながら、真剣な表情でこちらを見た。なんだか気圧されてしまう。もしかしてサボ君、覇気使った?言い返す気力もなんだか萎えていく。
「・・・はあ。わかった。素潜りじゃなくて釣りに変更する。サボ君は火の確保!」
「いえっさー」
サボ君は座ったままで敬礼をすると、ぐでっと力なく横たわった。
「なにしてんの」
「脱力」
サボ君を思いっきり蹴り飛ばした後は、いい感じの釣りスポットを探して三千里。成果は上々だった。魚の尻尾を、森で見つけた真っ赤なクレマチスのツタの部分で縛って束ねる。大物から小物まで、全部で20匹。これでお腹も膨れるはずだ。ただし、サボ君の底なしの胃袋は計算に入れないものとする。
陽が沈むほんの少し前、岩場から帰ってきた私を出迎えたのは、特大のキャンプファイヤーだった。轟々と大きな音を立てながら火が燃え盛っている。
「ええー。思ったよりすごいのができてる」
「野宿と言えばキャンプファイヤーだろ」
サボ君がキャンプファイヤーの組木を叩きながら、得意げに言った。
「サボ君がはしゃいでるよ」
「たまにはいいだろ、こういうのも」
サボ君があんまり楽しそうなものだから、なんだかむずむずしてきて、出発前にサボ君が座っていた葉っぱの上にわざと魚を並べてやった。サボ君は、いっぱい捕れたななんて言いながら笑っている。なんなんだ。でも仕方がないから半分だけ分けてあげよう。
「いつもこれくらいはしゃいでていいよ」
小さく呟いたつもりだったのに、サボ君はこちらを向いて微かに笑った。
「そういう訳にもいかねェだろ。立場上さ」
なにその顔。そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。なんだかむしゃくしゃする。サボ君の顔をそれ以上見ていたくなくて、私は自分用に持ってきていた葉っぱの上に腰を下ろして膝を抱えた。なぜかサボ君も同じ葉っぱの上に腰を下ろす。狭いんですけど。スペースを確保するために仕方なくもっと端に寄ったのに、サボ君はさらに距離を詰めてきた。肩がくっつく。