第1章 悪魔のより糸は解けない
「なんだ七海?何か言ったか?」
「えっ?何も言ってないけど」
こちらも声を張り上げて応じると、サボ君は首を傾げた。しかし直ぐに歩き出して、森の中に消えてしまった。浜辺にぽつんと一人残されて、はたと気が付いた。この無人島でサボ君は一体誰の声を聞いたというのだろう。そこまで考えて、一瞬で背筋が寒くなった。
「サ、サボ君待ってーー!1人にしないでーー!」
私は大急ぎでサボ君の後を追って森に飛び込んだ。
あれからどれくらい時間が経っただろう。薪を集めるのが思いの外楽しくて夢中になってしまった。猛獣に会うこともなかったし、サボ君が悪魔の実の能力でずっと辺りを照らしてくれていたから、暗くもなかった。たまには褒めてあげてもいいかもしれない。砂浜に出ると、もう陽が傾いてきていた。海に反射した夕日が、オレンジ色に波を染める。サボ君と二人で薪を浜辺に集めながら、私はその光景に見とれた。そう言えば、さっき見たサボ君の炎も、あんな風に綺麗な色をしていたっけ。
「サボ君、さっきは、その・・・ありが、あ、あーーーっ!!夕陽がきれいだなあ!こんなにきれいなのに、サボ君は海に入れないんだよね!残念だね!」
おかしい。お礼を言うつもりだったのに。なんでこうなるんだ。大きな声を出して恐る恐るサボ君を振り返ると、サボ君はきょとんとした顔でこちらを見た。薪はもう運び終わってしまったらしい。サボ君は、森で見つけた大きな葉っぱを浜辺に広げて、その上に腰を下ろしながら言った。
「ああ。悪魔の実を食っちまったからな」
ちょっとは怒ればいいのに。この余裕さもむかつく。私とサボ君が革命軍に入ったのは、ほとんど同時期だった。当時はお互い余裕がなくて、よく喧嘩をしたものだったけど、最近はいくらこちらから喧嘩をふっかけても笑って流されてしまう。自分だけ大人になったみたいな顔をして、私を置いていく。いくら追いかけても追いつけなくて、でもやっぱり追いかけてしまう自分がバカみたいだ。私だって役に立つというところを見せてやる。今に見てろサボ君。ぎゃふんと言わせてやるから。
「ふふふ。では私が魚を取ってきてあげようじゃないですか。貸しだからね、溺れたときのとこれで、二つ。」
私が腰に手を当ててサボ君を指さしながらそう言うと、彼はおかしそうに目を細めた。