第2章 つくもがみといっしょ!
「エースの上に吐いてやる」
エースの顔が青ざめた。
「ちょ、ちょっと待て。落ち着け。話せばわかる。あ、サボからメール来てるぞ!ほら!」
「サボから?」
壁に手をついてふらふらと立ち上がる。掌から伝わる温度はひんやりとしていて心地よかった。
「んー?サンジが酔い覚ましのデザート作って待ってるってさ。よかったじゃねェか。あと、今月厳しいからタクシー使わずに歩いて帰って来いってよ」
エースが斜め上を見上げながら言った。サンジ君は去年卒業した美人な先輩から譲り受けた冷蔵庫だ。サンジ君に任せた食材は腐りにくくて長持ちするからとても助かっている。しかも、サンジ君は料理がとてもうまいし、女性に甘い。いつも美味しいデザートを作ってくれるから大好きだ。
「同じ”サ”のつく付喪神同士でもここまで待遇に差が出るものなのですか」
「お前が何でもかんでも拾ってくるから金がかかるってサボが言ってたぞ。この間も猫なんか拾ってきやがって。サボが毛だらけになってたじゃねェか」
「ル、ルフィは喜んでたし。サンジ君だって結構気に入ってたよ。エースだって満更でもなさそうだったじゃんか」
「おれを舐め回すまではな。おら、こっちから行くぞ」
エースが私の手を引っ張った。近道を探してくれたらしい。GPS機能って便利だ。私の手首を掴んだエースの手は温かい。いつもは半透明で触れないが、こうして実体化しているときのエースには触れるのだ。しかも、どういうわけか普通の人にも見える。付喪神って不思議だ。
「サボにもうすぐ帰り着くって伝えておいて。あと今日のゼミ発表うまくいったって」
「はいよ」
今日はゼミで発表がある日だった。学生の味方、図書館の検索機の付喪神であるロビンちゃんにおすすめの文献を見繕ってもらったのになかなか仕上がらなくて、結局昨日はサボに徹夜で手伝ってもらった。サボはうちの頼れるPCだ。県外の大学に進学が決まったときに、大学の入学祝いとして両親からプレゼントしてもらった。小さいころから一緒に育ってきた付喪神、というとなんだか変だけれど。