第2章 つくもがみといっしょ!
「なんで途中で抜けなかったんだよ」
隣を歩くエースが、ぶすっとした顔で話しかけてきた。私たちは、大通りから一本逸れた道を、ゆっくりと歩いていた。今日は9時には帰るつもりだったのに、ゼミのコンパが長引いたせいで帰りが遅くなってしまった。いつもより始まるのが早かったので油断していたら、あれよあれよという間に3次会まで流されてしまった。もう丑三つ時も近い頃だ。
「だって、だってだよ、ずっと教授の横に座ってたんだよ!発表の批評ももらってたし、すごく言い出しにくい感じだった・・・ってエースも知ってるでしょ!というかエースなんて畳の上で寝っ転がってただけじゃない!」
そう、エースは私が言い出すタイミングを計っている間中、座敷の空いたスペースで寝転がって鼻歌を歌っていた。最近ルフィが気に入ってよく流してくれる曲だ。
「他にどうしろってんだよ!おれの姿はお前にしか見えねェっつってんだろ!」
エースの大きな声が路地裏に響き渡る。しかし、その声も私にしか聞こえない。彼は、付喪神だ。エースは高校のときに買ったスマホに憑いていた男の子で、大学に入った現在までずっとお世話になっている。そう、雨の日も風の日も共に学校に通った仲だ。そのせいで仲良くなりすぎてしまった。もう機種変なんてできそうにない。それに、前に一度だけほんの出来心で機種変の話を出したときには、エースが家出してしまって大変だった。サボがサーチして見つけ出してくれた時には、もう充電がなくなりかけて連絡も取れないような状態だった。あのときはルフィが泣き喚いて近所中に悲しい音楽が鳴り響くしサボはショックで電源が落ちてデータが飛ぶしで大騒動だった。本当に、心から反省しています。
「うっ・・・」
「お、おい、こんなところで吐くなよ。ばっちいな。もう家も目の前じゃねェか。我慢しろ」
口元を抑えて蹲った私に、エースが優しい言葉をかけてくれた。有難くて涙が出そうだ。震える手でポケットからエースの本体であるスマホを取りだす。炎のような赤色が基調で、ところどころにオレンジ色のグラデーションが混じったかっこいいデザインのスマホだ。ホームボタンはスペードのドクロマークになっている。どちらかというと男の子向けなデザインだ。イヤホンジャックは、エースにねだられて買ったテンガロンハット。ちょっと奮発して買ったいいやつだ。