第7章 義臣と疑心
「さ、それでは、自分らしく、好きな反物を
選んで頂きましょうか、姫様?」
主人が微笑む。
「ご主人、失礼しました。
名を名乗るのも忘れておりました。
私、瑠璃 と申します。」
瑠璃は礼儀正しく、頭を下げた。
「これは、瑠璃様、今後ともご贔屓に」
政宗と瑠璃は一緒に袴用の反物を3本と
袴に合わせる着物用の反物を2本選んだ。
「出来上がりましたら、お城までお持ちいたしますゆえ」
帰り際に主人が頭を下げる。
「じっとしてられない政宗と一緒に、
またこちらから受け取りに伺います」
と、瑠璃は笑う。
「瑠璃他にも回って帰ろうぜ」
「はい!」
「主人、馬を頼む。
町中だから歩いて楽しもうぜ。
ほらっ」
政宗は、瑠璃の左手を掴むと、
笑って歩き出す。
瑠璃は、取られた手をそっと握り返した。
握り返してくれた瑠璃の手の温もりは、
まだ遠く、かすかな気がした。
(瑠璃、お前が本当に俺の手を取る時は来るのか?)