第39章 安土凱旋帰還と平穏の日
苦しげで悲しげに、辛そうに耐えるような、
何とも言えない瑠璃を初めて見た。
いつも、何でも平然と冷然として見え、
痛楚※の感情など持ち合わせていないかのような瑠璃が、生気もなく全身で哀悼し悲しみ泣いているようだ。
(いくら瑠璃でも、キツイだろ…)
※痛楚…いたみ苦しむ。
そう思えば、家康の口から自然と光秀を責める言葉が出ていた。
「光秀さんっ、何で連れて行ったんですかっ!」
「家康、そう怒るな。無事戻っただろう」
光秀は家康の非難をもろともせず躱す。
「無事?何処がですか⁉︎」
「怪我は無い」
「光秀さんっ、身体に怪我はなくても、
この子の心は怪我してますよ!」
家康が声を荒げ噛み付く。
「ほぉ、お前はなぜそんなに心配する」
「〜〜っっー〜」
ニヤニヤと見てくる光秀に家康はグッッと言葉に詰まった。
「俺が責任を持って治してやるし、瑠璃は自分で乗り越えられる」
光秀は誰に向けてでもないが、確かにそう言って笑った。