第7章 義臣と疑心
朝餉の片付けと、言い使った仕事を終えた瑠璃は、薄萌黄色の着物に着替え、髪をサイドアップにまとめあげた。
「髪飾り、欲しいな…」
鏡に映った自分を見ながら、ふと思い出す。
今と似た色、若草色の着物を纏った日、
「すぐにお嫁に出せるわ。瑠璃、
綺麗よ」
母がそう言って、鏡越しに笑った。
(母の笑顔にはいつも心が警鐘を鳴らして
いたわ…)
あの時その目は笑ってはいない様に見えた。
品定めし、画策している様な目。
(私の嫌いな人っ)
そして、今朝の自分も…。
嫌気がさしていた。
疑い、勘ぐり、邪推する。
人の考えを先読みして、
心を隠す言葉を選んだ。
自分が、相手が傷つかないような、
時には傷つくような言葉を、
心にも無い言葉をこの口から吐き出す。
あの家で人間不信に、
いや、母親不信になった。
1番近くにいる母に1番気を許せなくなった。
母の一挙一動を警戒するようになった。
それはいつの頃からだったか、
忘れた…。