第39章 安土凱旋帰還と平穏の日
本丸で長政の自害を目の当たりにしてから、
瑠璃はずっと光秀から離れないでいた。
初めて戦場で矢を放った時より、もっともっと怖かったのだ。
自分が人を殺したと思った時とは、違う恐ろしさ。
人が死を選んで、自ら命を絶った時の、
悩み、無念、怨念染みた苦しみの表情。
それに加え、初めて見て感じた、
政宗の無慈悲で非情なまでの冷たい本気の殺気。
長政が腹を切り倒れる前に聞こえた、
鈍高い音は、政宗が長政の胸を突き刺し
引き抜いて、トドメをさした音だと見てなくても解った。
その音がさらに恐怖を強くした。
(たまらなく怖かった)
命が奪われる恐怖、その反対に、
しがみついた光秀の心臓の音。
生きている音がして、安心の中に死の音が重なって、泣きそうになる位怖くなった。