第36章 戦雷落ち 戦命霧散
更に綻びは増えた。
「止むを得ぬ、帰還だ。
御館様の身が優先じゃ、急げっ」
武田陣内が俄かに騒がしく動き出し、
再び交戦せず、全陣をまとめ撤退の準備を始めた。
「ここまで追い詰めてこのザマか…ついてないな俺は……」
信玄は力無く嘲笑する。
「ゔっ…ゴホッ…ゴホッッ、ぅぐっっ…」
手で口を覆い堪えても、くぐもった咳と共に血を吐く。
「アイツらの首は…次の機会か…残念だ」
儚く笑って立ち上がった。
大将が吐血したことで、ここに武田軍撤退となり、
織田徳川の三河防衛は危機を脱することとなった。
安土城へ帰還している信長の元に、
三好脱戦の知らせと、武田軍撤退につき
三河防衛を果たした と言う知らせが届いていた。