第36章 戦雷落ち 戦命霧散
気を張り神経を尖らせ、眠れず疲労が溜まる。
「敵襲ーーっ!」
もう何度目ともなるその声に、反応は鈍い。
昨夜、一晩中、幾度となく起こった空奇襲は、
砦内の兵士達に疲労と共に、疑心暗鬼を生じさせ、武器を取る手を鈍らせた。
織田傘下 明智光秀軍は昨晩の虚襲で
敵を欺いているうちに、石山砦の包囲を完了させていた。
「未完成の砦だ。攻略は容易、一気に攻め落とせ」
鉄砲隊を前列に配置し、その後方からいつもと同じ調子で号令をかける。
感情のない冴え冴えとした声を風にのせた。
ただ、その瞳だけは、獲物に絡みつき締め上げる時の蛇のように冷たく輝いている。