第2章 女神の正体
「…………」
「名は、なんと言う?」
「……瑠璃……」
力なく、囁くように、乾いた唇から吐かれた名前。
カサカサの掠れた声。
「瑠璃。綺麗な名だな。
怪我はないようだったが、痛む処はないか?」
政宗の問いに瑠璃は黙って首を縦に頷く。
「痛いのは心だな……」
政宗のその言葉に、俯いて、涙を流す。
静かに泣く瑠璃に、
「お前が矢を放ってくれたお陰で、
俺は助かった。
お前は殺したんじゃなく、俺の命を救ったんだ。瑠璃」
それを聞いて瑠璃は声を出して咽び泣いた。
その間、政宗は瑠璃の背中をさすっていた。
暫く泣いて、泣き止んだ頃
「落ち着いたか?」
「はい……失礼しました……」
小さく詫びる瑠璃
「謝ることはねぇ。
女を抱き締めてたんだ、役得だろ」
と笑ってみせる。
「飯食え。5日も眠ってたんだ、腹空いたろ」
瑠璃は驚いた。
「5日も?」
その間もずっと魘されていた事は黙っていた。
「あぁ、お前が眠ってる間に、俺の傷はほぼ治ったぞ?」
戯けてみせると、
「怪我…」
思い出したように瑠璃が言う。
「右肩……酷い怪我なのかな?と思ったけど……治った……?」
その言葉に政宗は驚いた。
「あんな遠くから、分かった…のか?」
敵兵には悟られないよう、隠して動いてた
つもりだった。
気付かれない自信もあった。
実際、相手には気付かれなかった。
(なのに、なんで)
「ずっと右腕を後ろに引いたままだったから、
使えないくらい痛いのかなと、思ったけで…
すみません」
申し訳なさそうに目を伏せる。
(遠目で、そんな動きを見るなんて、コイツ何者だ?)
不審感を隠して政宗は続ける。
「そうか、いや…いいんだ。謝る必要はない。
ところで瑠璃
ここが何処か分かるか?」
言われて、瑠璃は部屋を見回す。
「いいえ、何処でしょう?」
瑠璃が先程より幾分和らいだ表情で
政宗を見た。
その表情に政宗は内心、安堵した。