第2章 女神の正体
瑠璃は夢を見ていた。
矢を負った兵士達が追いかけて来る。
逃げても、
逃げても追いかけて来る。
辺りは一面火の海。
「いや、いや、いやぁ、こ、来ないで!」
泣きながら走る。
(怖い、怖い……)
「あっ!」
転んで、立ちあがろうと見れば、掌は真っ赤な血が
ベットリ とついている。
ヌルヌルとした感触に背筋が凍る。
「わたし、私…人を…」
(コロ…した…)
認識した途端、瑠璃は慟哭した。
「い、いやぁぁぁぁーー」
つん裂くような叫び声と共に、ガバッと身を起こすと、
「大丈夫でございますか⁉︎」
女性の声が掛けられる。
が、瑠璃には届いていない。
「いや、あぁァァ!」
半狂乱に頭を振り叫ぶ,
女性の肩を掴むと揺さぶる。
「人!ひ、ひと……ひっっ…こ、ろ……」
肩を掴まれた女性も、驚いて声も出せない。
そこへ、バタバタと、走り来る足音がして、
荒々しく襖が開かれ、政宗が血相を変えて入ってくる。
「どけっ」
放心状態の女性を押し退けると、
「大丈夫だっ!」
と言って、瑠璃を抱き締めた。
瑠璃が息を飲む。
「大丈夫だ、お前は殺してない。俺が殺した。
俺が、全員殺したんだ」
「ちがう、違うっ。
私が、殺した……私が…わたしがぁぁぁ〜」
瑠璃は政宗に抱きしめられたまま泣きじゃくる。
どの位、そのままで泣いていたのか、
そっと、瑠璃が顔を上げた。
濡れた*銀鼠色(ぎんねずいろ)の瞳が
悲しみと不安を物語っていた。
だから、政宗は、笑顔で問うた。
「お前、名は?」
*色はできるだけ、昔の色を意識して和名で書いてます。
銀鼠色…薄いグレー薄い銀色のような色