第5章 朝の喧騒
「瑠璃、お前、俺の駆歩について
来れるなんて、すごいな」
政宗は賞賛しながら瑠璃の頭を
ポンとなでる。
「そうですか?
風になったみたいで気持ちよかったわ」
清々しく笑うが、珠のような汗が額に浮いている。
馬の遙を水辺に引いて行きながら
(本当に久しぶりに馬に乗ったから、
明日、足が筋肉痛だろうなぁ)
と1人苦笑いを浮かべた。
「しかし、公家の女が馬に乗れるとは、
驚きだな」
遥の横でしゃがんで泉に手を浸していた瑠璃が驚いて振り返り、光秀を見上げた。
「何をそんなに驚いている」
光秀は涼しい顔だ。
「光秀様、知ってらっしゃったのね」
瑠璃は立ちがあると、不安の混じった表情で光秀を見た。
「初対面でおおよそ推測できていたので、
政宗に聞いた。
しかし、お前は…
一緒に過ごせば過ごすほど、興味深い女だな」
瑠璃の瞳が揺れながら光秀を見ている。
(興味深い…それだけ?)
「何をそんなに不安に思う。
公家だろうが庶民だろうが、お前が、
俺たちを欺き、敵になるような事さえ
無ければ、お前はお前。
俺たちは俺たち。
何も変わりはせん」
なんでもない事のように言って光秀は
笑った。
(……なんで…)
「瑠璃、俺からすれば、お前はまだまだ
解りやすい」
クッ と笑う。
「特に、外ではな。
もっと、精進しろ」
そう言う光秀の目は優しかった。