第5章 朝の喧騒
政宗が来て話を変える。
「瑠璃、お前、馬はいつ習ったんだ?」
政宗が問う。
「16の時からだったと思います。
兄達が先に習っていて、付いて習えと、
母が突然言い出したので……」
「母上がか?豪気だな」
政宗は呑気に言うが、瑠璃の心には
波が立ち始めていた。
「兄達のついでです。」
強く言い切る。
「まぁ、そう言うな。
母上もお前の為を思って習わせたのだろう」
母をフォローするような政宗の言葉に、
瑠璃は噛み付いた。
「私の為だなんてあり得ない」
黒い感情が波立つ。
(私の為だと口では言いながら、
考えてるのはーー)
「家の為以外には何もありませんっ」
語気を強め感情的にそう、強く否定した後、
一気に冷静な口調になって、
「母の中の私なんて……私はっ、どこかの良い家にお嫁に行きさえすればいいんです。
全てその為の、教養です」
と自嘲気味に言って笑った。
瑠璃にしては珍しく感情をひどく表した。
蘇芳色の袴をギュッと握りしめ、俯くと
「……ごめんなさい。ちょっとだけ頭を冷やしてきます……」
と言うと、政宗と光秀の間を割って森の方へ歩いて行った。