第30章 花顔涙咲
じっと瑠璃を見た信長は
「瑠璃、今日は地味だな」
揶揄いの言葉を投げ掛ける。
面会で自分を品評され、そう言われれば、
大概の姫は気分を害するだろう。
今日の瑠璃は若紫色の着物を、
紅色の半衿で引締め、紅紫の肩掛けを掛け、
春を意識してはいるが、少しおとなし目の装いだった。
「今日は美弥様のお見舞いなので、派手な色は控えました」
清慎と答えてはいるが、負けない眼をして信長を見る。
「そうか…ククッ…しかし、やはり、
辛口のお前には甘い色は似合わぬな。
その心と同じく、深く重い色が似合う」
その言葉に、鮮やかに微笑む瑠璃。
「嬉しい。信長様と同じですね」
(蔑まれた言葉とは取らない処が、本当にコイツの賢さだな)
しょぼくれもしない、怒りもしないで、微笑んだ。
今日の着物を褒められなかった女が普通に取る態度では無い。