第30章 花顔涙咲
天主に入り、奥の間へと声を掛ければ、
「入れ」
襖が開かれる。
「お久しぶりでございます。お呼びでしょうか」
伏したまま挨拶を述べる瑠璃。
「堅苦しい挨拶はいらん。
俺は瑠璃を呼んだのだ。貴様は退がれ」
「しっ…しかしっ、信長様っ」
慌て渋る秀吉。
「秀吉よ…貴様はまだこの女を、
公家が朝廷の狐か狸と疑っておるのか」
揶揄いを含んだ信長の言葉。
ニヤッと笑う信長と目のあった瑠璃は、
それが合図かの様に、横の秀吉に、悲しそうな目を向ける。
「秀吉様…私のこと…ずっと、そんな風に、
思っていらしたんですか…?」
「いっ、いや、その…俺は、信長様を…」
ウルウルとした瞳を向けられ、秀吉が狼狽える。
「俺がなんだと言うのだ。申してみよ。
それとも、俺をダシにして言い逃れをするのか」
信長が畳み掛ける。