第5章 朝の喧騒
「政宗様⁉︎」
厩務(きゅうむ)係の者が驚き駆け寄って来る。
「今日は馬に乗られるご予定でしたか?」
「いや、急遽、朝駆けに行くことになった。
準備してないのは気にするな」
厩舎に入ると政宗が馬をあてがう。
「瑠璃はその茶色の馬に乗れ。
名は遙(はるか)だ。比較的大人しい」
鼻の流星が美しい栗毛の馬だ。
「政宗の黒いのは?」
「コイツは黒鉄(くろがね)。俺の馬だ。
光秀の白い馬は白陽だ」
瑠璃は「よろしくね。遙」と優しく撫でてやる。
「こいつらに、準備を頼む」
「はっ」
頭を下げながらも、
「瑠璃様にもですか?」
と確認する。
「ああ、頼む」
政宗と光秀は笑いを噛み殺す。
瑠璃が頬をプゥと膨らませている。
「まあ、当たり前の反応だ」
「光秀様のイケズっ」
厩務の者が政宗の指示で鞍を乗せ、銜(くつわ)を咬ませ、手綱を張り、慌ただしく準備を整えると、各々、馬を引いて外に出る。
光秀と政宗が興味津々で見守るなか、
踏み台の前に遙を連れて行った瑠璃は、
台に登り鐙(あぶみ)に足を掛けると、
ヒラリっと鞍に跨った。
「此処までは上出来だが、遙が動かなけれは乗れた内に入らないぞ」
と言って、光秀も跨る。
「じゃ、行くか」
政宗が馬を進める。
「瑠璃、ついてきてるか?」
それ程進んでもいないのに、
心配顏の政宗と意地悪顏の光秀が瑠璃を振り返る。
「なんだ、なかなか、様になってるな。」
「広い場所で私の実力を披露しますわ」
「ほぉ、お手並み拝見だな」
武将2人はそれぞれの馬に声を掛けると、
城内を出ると、常歩(なみあし)から速歩(はやあし)に、速歩から駆歩(かけあし)にと
速度をあげる。
瑠璃も、続いて行く。
(うわぁ、こんなに駆けたの久しぶり!)