第30章 花顔涙咲
「…はい。光秀様が、『夜道でなくても気を付けろ』と仰ったので。
もしかして と思い、着替えて帰りました」
気後れした感じも、悪びれた感じも無く、
淡々とした声音で答える瑠璃。
単調で事務的な口調。
でもどこか油断のない、擦れた様な屈折した感じを纏って聞こえた。
確かに光秀は瑠璃の退室際にそう言っていた。
(光秀はそう言う事で 注意しろ と言っていたのか)
それに対して瑠璃は、
『姿を眩ませる術でも使えればいいのですが…』
と言っていたのを覚えている。
光秀のあの一言で、外に危険があるかもしれないと考えたのだ。
(光秀の言葉を読み解いて、外に何かがあるかもしれない、なんて、普通の女が考えるか?)
つい、口をつぐみ、眉を寄せ考える。
(…やっぱり…そんな顔、するんだ……)
政宗を見た瑠璃は、そっと瞳伏せる。