第30章 花顔涙咲
大手道を2人で歩いて行く。
甘い香りが何処からか漂って来る。
「瑠璃、香を焚いていたか?」
「いいえ、きっと、アレです」
道の脇を指差す。
「沈丁花、春の匂い。私は好きです」
見れば、薄桃色の花が小鞠のように房になって咲いている。
独りで歩いていても、男と歩いていても、
道端の花なんかに、気を取られたりしないのに、
女と一緒なら、花の香りにだって反応するのは、
本当に不思議だ。
沈丁花を見る瑠璃の表情一つにだって何かを思う。
「懐かしそうに見るんだな」
「…はい…。家の庭にあって…。
いつだったかな…母に叱られて隠れて泣いていた私に、正臣兄様が。
「泣くな」って言って、結んでいた髪に挿してくれて……」
沈丁花を目を細め見ながら、話す瑠璃。
懐かしさと共に蘇る辛い過去。