第4章 光秀逗留
2人は真っ直ぐ城には帰らず、広瀬川の河原へ寄り道をしていた。
草原のように草が青々としげり、
風が吹き抜けて行く。
「気持ちいーい!」
瑠璃は木陰に膝を抱えて座り、空を見上げる。
「変わりゆく 雲に心無くしても
我が心有れど 雲にも敵わん……」
風に溶けるほど小さな声で、瑠璃が和歌を詠んだ。
「心無い雲とてど、自由に形を変えて流れ行くのに、自分は心があっても雲ほども自由に生きる事が出来ない……か。
そんなに窮屈に生きて来たのか?」
瑠璃の傍らに立つ光秀が尋ねる。
そっと目を閉じ、抱えた膝に顎を乗せる。
「……私の意思も、自由も思い通りになりませんでした。
人の顔色を伺って生きる事に慣れてしまった。
素直に心を晒せば、足元を掬(すく)われる。
外出した数時間だけ、私は私でいられました。」
目を閉じたまま、語る瑠璃の言葉には何の感情もこもっていない。
悲しみも、怒りも、
生きて来た喜びも、
人への愛着も無いような。
「私は、何の為に生きて来たのかな……」
呟く瑠璃の頭をポンポンと撫で、
「これから、探せばいい」
と、光秀が言うと、瑠璃が顔を上げて
「光秀様……」
少し震える声で
「ありが…とう……」
と御礼を述べる。
(素直になれない……か……
俺には十分素直に見えるぞ、瑠璃)
内心、そう呟いて薄く笑う光秀。
そして、光秀は無理して笑いそうな瑠璃に、
……吸い寄せられるように……腰をかがめ、
口付けていた。
触れるだけの一瞬の口付け
「相談料だ」
と笑うも、光秀も自分の行動に驚いていた。
(こんな事………らしくも無い……)
「高いっ」
と悪態をついてそっぽを向いて見るも、
瑠璃は耳まで真っ赤だった。
「そろそろ、帰るか。
城の主がお前を待ってるぞ」
光秀が手を差し伸べる。