第3章 初夏の訪問者
政宗と共に部屋に戻った光秀が
「アレが、お前を救ったのだな」
と切り出した。
「ああ。お前のことだ、粗方聞き出したんだろう?」
政宗がため息混じりで額を抑える。
「いや、別に。
和歌が読め、琴が弾ける。
そして、なかなか面白い女だったぞ。
酒を持って来させようとしたとき、
『強い酒も、薬も俺には効かん』と言ったら、
大概の女は内を読まれたと、羞恥と恐れを
あらわすものだが、瑠璃は涼しい顔で
『そんなに恐い顔してましたか?
まさかお客様にそんな事しませんわ』
と言って笑ったのだ。
愉快だったぞ」
光秀は思い出してまた笑う。
「そんな事を…」
「何処の女だ」
光秀は金色の目を鋭くして政宗を見据えた。
「庶民は和歌も琴もできん。
小さな武家の姫は琴くらい出来ても、
和歌など読まん。
姫なら簡単に酌などもっての外。
武家の姫は気位ばかりが高く阿呆が多いが、
瑠璃は只の姫とは違った」
どうせ隠しても光秀の誘導尋問から
逃れられるはずはない。
政宗は潔く口を開いた。
「京の藤原だそうだ」
「……それで……」
腑に落ちたようだった。