第3章 初夏の訪問者
「なかなか、良かったぞ。」
「ありがとうございます」
はにかんだ笑顔で瑠璃が頭を下げる。
先ほどとは全く違う、真っ直ぐな笑顔を
向けられ、表情には出さないが、
光秀は少し戸惑った。
「瑠璃、こちらに来て酌をしてれるか?」
「はい」
瑠璃が嬉しそうに返事をし、
笑ったので、光秀は驚いた。
「やけに嬉しそうだな。酌をしろと言うと、
嫌がると思ったぞ」
「明智様がお願いしてくださったから。
先程は 酒を持て!と命令されましたから」
「あぁ、そう言う事か。」
盃を出すと瑠璃はそっと徳利を寄せる。
「どうぞ」
酒を注ぐ瑠璃を眩しそうに光秀は見た。
(危ぶんだり、探ったり、作り笑いだったり、
本心から笑ってみたり、変な女だ)
そう思ったが、
(そんな女は嫌いではない…)
それからしばらくの間、瑠璃が光秀の酒と時間を満たしていた。