第3章 初夏の訪問者
「和歌が読めるのか、お前、名は何だ」
突然、初対面で不躾にそう言われ、
不信に思ったが、政宗の留守の城に
入って来れ、尊大に名を尋ねるなら、
それなりに偉い人だろうと考え、
丁寧に答えた。
「瑠璃と申します。
…失礼ですが、私もお名前をお伺いしても?」
「明智だ」
(この時代の明智っていったら、
この人が、あの…)
「明智……光秀…」
光秀がニヤリと笑う。
「政宗は何処だ」
「お出掛けになられてます。小十郎様なら
いらっしゃいますが?」
「小十郎に話をし、また政宗に話すのは
二度手間だ。帰ってくるのを待つ」
光秀は瑠璃を逃さないつもりだった。
「酒でも飲みながら待つとしよう。
瑠璃、酒を持て」
名指しで言われれば、拒否出来ない。
(この人ワザと……)
何故なら、政宗を訪ねて来た客であり、
戦国時代の名だたる武将である。
ここにお世話になっている身では光秀を
無下にする事は不可能だった。
光秀はそれを解って酒を持て来いと
命じたのだ。
「かしこまりました。すぐに用意して
参ります。」
と立ち上がり歩き出そうとする瑠璃に光秀は
「強い酒も、薬も効かぬぞ」
と釘を刺す。
「私、そんなに恐い顔してました?
まさか、お客様に、ましてや明智様に
その様な事は致しませんわ」
と笑って見せたのだった。