第21章 呼ばれた男
外回廊で瑠璃を探していると、池の上に掛かった渡殿の欄干に腰掛けていた。
朧月夜の仄明るい月の下。
(何を思っているんだろうな)
近づいて見れば、まるで消えてしまいそうに儚く見えて、政宗は足を速める。
今、捕まえないとすり抜けてしまいそうだった。
「瑠璃!」
歩み寄りながら、瑠璃の名を呼ぶ。
政宗の声に、薄く微笑んだ瑠璃。
(帰るのか?帰らないって言っただろ?
俺と一緒に生きるんだって!)
欄干に腰掛けていた瑠璃の手を引っ張り、
自分の胸に強く強く抱きしめる。
「何処行くんだ。本当に月に帰るのか」
(政宗?)
苦しげに見つめられる。
そんな政宗に微笑んで瑠璃が言う。
「輝夜姫は……愛を知らずに月へ帰ります。
私は愛を知ってしまったから、月へは帰れないみたいですよ。政宗」
「本当か?」
「羽衣伝説の衣ように、私の心は政宗が持って行ってしまったから、もう、帰れません」
きっぱりと言う瑠璃。
「でも、考えてただろ?」
「源蔵さんが京へ旅立って行って、何となく、
寂しく色々考えていただけですよ」