第21章 呼ばれた男
誰かとは、家族、政宗、はたまた 思い描く刀。それを思いながら耐えて、名刀工になって欲しいと願う。
そんな瑠璃の手紙を源蔵は何度も何度も読み返し、挫けそうな時の心の支えとすることになる。
「今日は御殿が華やかだな」
宵口に御殿に帰ってきた政宗が、其処此処に活けられた花を見て、付き従う女中に振る。
「源蔵さんが、出立されると言って、瑠璃様が飾っておられましたよ」
女中が優しい笑顔で話す。
政宗が自室の襖を開くと、蒸せ返る程の花の香が流れ出てきた。
見れば、床の間、違い棚、書院 至る所に 水仙の花が活けられている。
見れば、文机の上にも 一輪挿しの水仙が置いてある。
「?…文、だな」
文鎮代わりか、一輪挿しの下には一通の文が押してあった。
「………尊敬、ね…」
政宗が笑って、水仙の花を見る。
「よっし」
筆を置いて、文を畳むと、懐に入れ部屋を出る。
「瑠璃、いるか?」
返事無し。
政宗、襖を開けてから、「入るぞ」と声を掛ける。
部屋にはいない。
(文、置いとくか)
政宗は文を机に置いて部屋を出ると、外回廊の渡りに出る。