第21章 呼ばれた男
旅立ちの日、御殿は瑠璃によって花で飾られていた。
「自己愛、尊敬」水仙の花言葉。
「源蔵さん、習う事は大変苦しいと思いますが、放棄しないで、立派な刀鍛冶になって帰ってきて下さいね」
「姫さん…」
源蔵は涙脆い。涙を溜めて顔をクシャクシャにしている。
「名刀工 って名を馳せるようになったら、
私の守り刀 も造ってもらおうかな」
「造ってやるよ!約束する」
「約束ですよ」
小指を立てて差し出す右手。
夕焼けのように真っ赤な顔の、源蔵の小指が瑠璃の小指に絡められる。
「行って来ます。兄さんによろしく言ってくれよ」
瑠璃は頷く。
「はい、これ政宗から。そしてこれは私から」
源蔵に水仙の花束と手紙を手渡す。
どんな過酷な冬の寒さでも、花を咲かせる水仙。それは、これから新しい事を始める人へ送るエール(応援)の花。
若いのに大変な体力仕事をする源蔵への尊敬、自分を大切に愛して「頑張って」と言う思いを込めて。
『君想ひ 打ち極めれば 灼耀と
思ひ起こつる 業苦の日々』
誰かを想いながら、刀を造る事を極めてみれば、苦しかった日々も鍛え出した刀も、灼熱のように燦々と輝いて思い出されるだろう。