第21章 呼ばれた男
「お前、なれないかもしれない と思いながら来たのか?」
意地の悪い言い方だ。
膝の上で拳を握り、俯いていた源蔵が顔を上げる。
源蔵には不安が見て取れた。
「俺はお前なら出来ると見込んだ。俺の刀を見た時の、刀を造り出したいと悔しそうに言った時の、お前の眼を見て、俺の刀を鍛えさせてやりたいと、刀工にならせてやりたいと思った。
俺はお前の未知の力を、馬と旅費で買ったんだ」
まだ見ぬ源蔵の能力を信じる政宗。
(この人はこんなにも、俺を信じるのか)
なんの曇りもなく、疑いもなく、己の直感を信じ、相手を信じる政宗。
源蔵は数打ち物を造るのに嫌気がさし、燻り腐って、ここに来るのも半信半疑だった。そんな自分が恥ずかしくなった。
「兄さん、俺…」
「お前が恩義を感じるなら、それは、
最高の刀を造り出すことで酬いろ。
お前の望みを叶え、俺の望みを叶え満たせ。
いいな」
有無を言わせぬ口調。そしてどこまでも真っ直ぐな眼。
(俺の望み…刀を鍛えること。名刀を造ることだ)
つまらない現実の毎日に、忘れかけ、捨てかけていた思い。
源蔵の心と瞳に熱が蘇る。
「決まりだな」
政宗が ニカッ と笑った。
(単純〜)
単純な政宗に単純と思われた源蔵は、数日
伊達御殿に留まった後、すぐに、京の刀工
越中守正俊に入門する為、旅立って行く。