第3章 初夏の訪問者
政宗は城下の外れ、城下の入り口付近の
旅籠屋を訪れていた。
「この頃、人の往来はどうだ?」
「南部方面から登って来る者も多いのですが、
つい最近、気になる者が泊まっていきました」
宿の老主人の話によれば、相馬氏から落ちた
流浪の武士らしき者が泊まっていったというのだ。
「相馬で間違いないのか?」
その節の戦の相手だった。
壊滅させたはずだった。
その残党がここに出入りしたという事は、
良からぬことを考えているとしか思えなかった。
「何人居た」
「私の処には3人で休んでゆかれましたが、
どこかで落ち合うような話をしておりましたので、
他の旅籠屋にも仲間がいるのではないかと」
「……いつも危ない事をしてもらって申し訳ないな」
情報を得る為に危険な客も休ませ、
それとなく話を聞き出す。
一言 間違った言葉を選択し、発すれば命に関わる。
「おそれおおいことにございます」
老主人は頭を下げる。
「そんなに恩を着る必要はないんだぞ」
「いいえ、生い先短い身、有意義な余生ですわ」
と、朗らかに笑いはするが、政宗は、いつも心に
多少の痛みを感じる。
「それはそうと、少し前に、大層美しい
姫君とご一緒に城下散策をされたとか」
「ん?」
「このような町外れの旅籠屋まで耳に届くほど、
町中を駆け巡りましたぞ」
ニヤニヤと政宗を見る老主人は、
先ほどとは別人のような顔つきになった。
「それで町の奴等が皆俺を見てたのか」
可笑しそうに政宗は笑う。
「命の恩人に町を案内してやっただけだ」
政宗が城下で情報収集したり、町の様子を
察したりしていた頃、城には思わぬ来客があった。