第17章 新年拝賀5(宴の刻)
「笑わないで下さいよ。初めての船で本当にキツかったんですから!」
光秀に笑われ、瑠璃は隠していた顔を上げて抗議した。けれど、
「何処の港に降りたんだ」
瑠璃の抗議はスルーだ。
「桑名です」
「そうか、あそこは色んな物があっただろう」
金色の瞳がまた、瑠璃を見た。
「はい。珍しいも物も、美味しい物もたくさんありました。
この櫛留め、鼈甲なんですよ」
涙はすっかり引っ込んでいる。
「ほお、黒鼈甲だな。螺鈿に蒔絵か。
肥前方面から来た高級品だな」
目を細めて櫛留めを見る光秀に瑠璃は
「お兄はん、目ぇ肥えてますなぁ」
店の男の真似をしてみせる。
「政宗が買ってくれたんです。政宗からの贈り物、私の大切な宝物です」
嬉しそうで幸せそうに笑う。
大輪の笑顔で可憐な花の様に。
「良かったな」
光秀もふっと笑う。
「はいっ。船酔いに耐えた甲斐がありました」
光秀はいとも簡単に瑠璃の笑顔を引き出した。
巧みな話術だけれど、難しくもない言葉を操って懐に入り込む。
そして、心を掴み、開かせる。
(……鎧は脱ぎにくいものだ…)