第16章 新年拝賀4(女神の涙琴)
信長の前に出るだけで、心が削られる感じがする。
慣れればそれ程でもない事だが、初対面でそれを感じない筈がない。
敏感になった心は弱くもなる。
「俺の何かがお前の琴線に触れたのなら、
怒るなり泣き喚くなりしろ。
そうでなきゃ、俺はお前に何もしてやれないし、解ってもやれない」
そう言った、政宗の溜め息を含んだ重い声に
「……ただ…褒めてほしかった……それだけなの……」
聴こえるか聴こえないか位の小さな声で、
言うと、瑠璃は深く俯いた。
「…そうか、悪かったな」
とだけ政宗は言って、瑠璃を残し部屋を出て行った。
政宗が出て行って間も無く、入れ代わるかのように、
「瑠璃様、お届け物です」
と言って女中が2人入って来た。
琴と酒徳利の乗った盆を置き、頭を下げただけで、何も言わず出て行った。
瑠璃も何も言わず見送った。
女中が置いて行った物をボンヤリと見る。
琴と酒……
(光秀様……)
止まっていた、止めていた、涙がまた溢れた。
(馬鹿じゃないの?こんなことして……)
心の中で強がって悪態をついてみても…
嗚咽が漏れる。
畳に付いた手を握り締める。
爪が食い込みそうな程強く握り締める。
涙がパタパタと音を立てて落ち、
畳の色をそこだけ濃くする。