第16章 新年拝賀4(女神の涙琴)
「本当か?」
「はい……政宗が、恥をかかない程度に対応出来ていたなら、それで満足です…」
予防線を張る。
それで、満足だと自分自身に言い聞かせる台詞。
まだ涙の残る瞳で政宗を見上げ、微笑んで見せる。
(……何か隠した?何を言いたい?)
真っ直ぐに、自分の気持ちに素直に生きている政宗には、瑠璃の深い処まで読み取れない。
でも、ねぎらってやりたいと思っていた。
泣いているなら慰め、慈しんでやりたいと、ずっと思っていた。
だから、政宗は素直に口にした。
「よく頑張ったな。信長様も褒めてたろ。
誇りに思う。瑠璃は俺の自慢の女だ」
そう言われても瑠璃は政宗を見なかった。
見れなかった。
待っていた言葉、欲しかった言葉だったけれど、遅かった。
ただただ、最初にその一言が欲しかったから。
「皆、平伏しそうだったぞ。
特に三成は頻(しき)りにお前を褒めてた」
泣いた瑠璃を気遣うように褒める政宗。
瑠璃は曖昧な笑顔だ。
2人の間に微妙な空気が漂う。
それは、政宗の言葉を素直に喜べない瑠璃の心が醸し出す空気だった。
「…宴まで少し休め、瑠璃」
小さな溜め息を吐いて瑠璃は
「…気を遣わせるつもりは無かったのに…
ごめんなさい……」
謝る。
「瑠璃。止めてくれ、謝るな。
お前は、お前が思うより疲れてるんだ」
政宗の本心だった。