第16章 新年拝賀4(女神の涙琴)
そーっと襖を開く。
(いない…)
ほっと胸を撫で下ろし、一歩足を踏み入れたところ、
「‼︎」
背後から突然羽交い締めにされた。
「こらっ、勝手に何処に行ってたっ」
「まっ、政宗⁉︎
気配を消して隠れてるなんてズルイですよ!」
抗議する瑠璃。
「ズルイも何も無いだろ⁉︎
……独りで、泣いてたのか?……」
予想外に気遣わしげな政宗の声が頭上から聞こえてきた。
緩まった腕の中で瑠璃は向きを変えると
「政宗様、案じていただきありがとうございます」
畏まって見せる瑠璃。
「心配ありません。外の風に当たりに行っていただけですから」
見上げる瑠璃の目に泣いた跡はない。
「私より政宗が泣きそうですよ」
政宗の心配を余所に、晴れ晴れと笑っている。
(隠してはない……な)
本当は、本当に泣いていなかったか、
辛くは無かったか、確認したい政宗だったが、清々しく、何でもない様にしている瑠璃の胸中を無理に開き、掻き乱す必要もないか……と思い、問いただすのを止めた。