第16章 新年拝賀4(女神の涙琴)
「お前がどこの者であるか、たいしたことではない。
これからも俺を楽しませろ、いいな」
「信長様……」
(千里眼でも持ってるのかしら…?)
瑠璃は信長を見上げる。
視線がぶつかる。
「なにかあれば、俺に言え。
お前の休息、邪魔したな」
(お見通し……)
瑠璃は クスッと笑う。
「信長様は優しいですね」
と言うと、信長がちょっと驚いた顔をする。
「俺が優しいとは、甘っちょろい事を言う。
俺は魔王だぞ」
「魔王であるとは、信長様を見た誰かの言葉です。私は信長様を優しいと思ったから、信長様は優しいと言っただけです」
広間での挑む眼では無く、柔らかく敬う様な目で瑠璃は信長を見て、微笑んだ。
奇妙な物でも見るように信長は微笑む瑠璃を見て
「……そろそろ部屋に戻れ。政宗が戻るぞ」
と言って、顔を背ける。
信長が逃げた。
「はい」
政宗が部屋に戻った時、瑠璃がいなかったら心配する事を言っているのだろう。
返事をした瑠璃は立ち上がる。
瑠璃とは反対へ進む信長の背中を見送って、自分も部屋へと歩き出した。
(織田信長って…やっぱり冷静で優しいんだ……)
洋風のデザインの月白(げっぱく)色の
毛皮のケープをサラッと撫でて瑠璃は嬉しそうに微笑んだ。