第16章 新年拝賀4(女神の涙琴)
どれくらい、下を向いたり上を向いたりしていただろうか。
「風邪を引きたいのか」
声と共に、バサッと何が掛けられ、
肩から背中に温もりを感じた。
(毛皮のケープ……)
顔を上げて振り向いてみると、天守に居るはずの信長が立っていた。
「信長様」
戸惑い気味の瑠璃。
「何も羽織らず、そのように長い間
外に居れば風邪を引くとゆうておるのだ」
フンッ とぶっきら棒に気遣う。
「南蛮から来た毛皮だ、使え」
「……ありがとうございます」
瑠璃が笑いかけようとすると
「無理に笑わずともよい。楽しい時
嬉しい時、笑いたい時だけ笑えば良い」
正面を見たまま独り言のように続ける。
「大の男でも 俺を前にすれば震え上がり、
口を開くのもままならぬと言うのに、たいしたもんだ。
貴様は他の武将をも横に並べながら、
抑畏し、気丈で果敢に振舞った。
態度も頭脳も刀の様だった。
今一度、褒めてやる」
話終わると、瑠璃を見て、童子のような笑顔を見せた。