第15章 新年拝賀3 (謁見の刻)
「見て下さいよ、瑠璃は全く動揺してないのに、秀吉さんの焦りっぷり」
家康が呆れ気味に溢す。
それを聞いた政宗は、苦虫を噛み潰したような顔になる。
色んな事を想像して、こうなる事もあるかも知れないと、心して来た。
信長の戯れの言葉より、秀吉が脇息の代わりになる事より、なにより政宗の心を掻き毟ったのは、やはり、
(俺以外の誰かが瑠璃の名前を呼ぶ……)
家康の口から出た、敬称無しの「瑠璃」と言う瑠璃の名だった。
「美弥、お前も女の側に行け」
「信長様?」
「必要ならば美弥の手を借りよ」
信長は美弥に手伝ってやれと言っていたのだった。
「信長様!「ありがとうございます」」
嬉しそうな美弥の声と、静かな瑠璃の声が重なった。
今から何が起こるかは分からないけれど、
美弥は瑠璃を手伝える事を喜んでいる。
秀吉が瑠璃の側に座り、美弥が瑠璃の後方に控える。
「女、準備は良いか」
信長は物見遊山だ。
(全て明らかにするまでは、飽くまでも
名前を呼ばないつもりなんだ…)
信長は今まで一度も瑠璃の名前を呼んでいなかった。