第2章 女神の正体
九つの頃(正午頃)
2人は城下に居た。
「俺が馬に乗れたならもっと早く下りて
来られたんだが、悪いな」
「怪我がまだ完治していないのですがら、仕方ありません」
「慣れない着物と草履だろ、大丈夫か?」
「大丈夫です。
初めての外出なので、
痛いなんて言っていられません」
瑠璃は政宗を見上げ笑いかける。
「本当は痛いんだろ?痛いのか?休むか?」
「ぜーんぜん!大丈夫ですってば〜」
と、足を早めてみせる。
城にいる時には1度も見たことのない、
明るい表情に、
政宗の気分も満たされてゆく。
子供が面白いものでも見つけた時のように、
無邪気に笑い
「政宗様!はーやーく〜」
と、振り返って政宗を手招く。
「大人しいと思ったのは間違いだったのか」
やれやれ…と言った様子で政宗は瑠璃を追いかける。
アレは何だ、コレは何だ、
美味しい!とか 不味い〜とか
可愛いとか、素敵とか
言いながら、ハシャいで走り回って 、
2刻は過ぎた頃。
突然
「楽しかったです。
また連れて来てくださいますか?」
と、何時もの口調に戻た瑠璃。
笑顔だけは幼くて、楽しそうなまま。
「もういいのか?」
「はい、今日の分は十分に楽しみました」
(成る程な)
政宗には解った。
「ここはお前を知る者はおろか、
縛る者も居ない。
周囲や、時間を気にする必要はないんだぞ」
瑠璃には自由な時間があまり
なかったのだと察しがついた。
城の中でみてきた瑠璃は、妙に物分かりが
良いと言うか、自分の置かれた環境をすぐに受け入れ、
順応しようとする風だったから。
人は自分の意思でどうしようも出来ない状況が続くと、
抗わず、それに従うようになってしまう。
特に女はそうだ。
(そして利用されるだけされて、捨て駒にされるんだ。)
この時代ではそれが顕著だ。
(時代が違えど、家柄的にそんな感じか…
自分の意見は強く言えなかったようだな)
政宗は瑠璃の境遇を想像して、切なく眉を寄せた。
「いいんです。また来た時の楽しみに取っておきますから」
瑠璃は明るく笑う。
その笑顔には無理している感じはなく、
本心から言っている様だった。