第2章 女神の正体
「下冷泉家女子に持たされる、証のひとつです」
差し出されたのは、美しい装飾の施された
懐剣。
下冷泉家の家紋である雪笹がみてとれた。
(本物だな、しかし…)
「証のひとつ、と言ったな。
他の物もあるんだな。
それを見せてくれれば、信じてやる」
信じようが、信じまいが、瑠璃の
扱いや態度を変えるつもりは更々なかったが、
言い渋った後の、決意を感じた時、気が変わった。
全て明らかにしておくと。
「それは…」
瑠璃が言い淀んで、そして、
「今、お見せしてもよろしいのですが、
もう1度、帯を結んでいただくことになりますので、
後ほど、湯浴みに行く前に、
お伺いさせて頂いますね」
(それってー)
恥じらいもやましさもない、毅然とした態度で、
真っ直ぐに政宗を見る。
(家紋が身体に刻まれてるって訳か)
1度、戸惑って言い淀んだ理由を考慮しても、
女が男に身体を見せる、と決心するには
余りに短すぎる時間ではなかったか。
「お前、清々しいなぁ。後で楽しみが出来たぞ」
愉快そうに笑う政宗をみて、瑠璃は
ホッとひと息吐いた。
「気が抜けたか?」
「少し」
「言ったろ、敵じゃなければ変わらないと」
「それでも」
「元の時代では苦労したんだな」
瑠璃は目を見張り、驚いて政宗を見た。
「おい、なんで鳩が豆鉄砲食らったみてぇな顔すんだよ。
それくらい、解るって」
ポンっと瑠璃の頭に手を置いて笑う政宗の顔は
優しかった。
瑠璃は泣きそうになって、
隠すように下を向いた。
(大丈夫だったー)
胸が温かくなった。
「さっ、唇に紅 引いたら出発だ」
と言って、政宗は瑠璃を鏡台へ押しやった。