第12章 睦月の旅路(海路にて安土へ)
(政宗だって疲れてるクセに)
政宗は、昨日も今までも自分が無理をさせた、と思っているようだが、瑠璃はそうだとは思ってなかった。
休ませてくれ、もっとゆっくり進めてくれ、と
言おうと思えばいつだって言えたのに、言わなかったのは、
瑠璃は瑠璃で、自分が旅の足を遅め、
政宗に要らぬ心労をさせていると、
負い目を感じていたからだった。
だからこそ、今日中に着いて、お互いの身体も心も休めたいと思っていた。
「なかなか勇ましい言葉だが…
負けず嫌いなだけだろ」
と政宗は苦笑した。
負けず嫌いと取られても何でもよかった。
瑠璃は政宗の為に、政宗は瑠璃の為に。
今日中に安土に着くと心に決めて出発した。
近江に向けて山を下り、家々が徐々に多くなり始める。
流れる景色を、全て横目に見ては通り過ぎる。
そして遂に、眼前が開ける。
小高い丘のその果てに、地上に在る空が見えた。
「海?」
馬を止めた瑠璃が尋ねる。
「近淡海(ちかつあわうみ)、近江之湖(おうみのうみ)だ。
そのそばに安土城がある」
(じゃあ、あれが……)
「琵琶湖ね」
「お前の時代では びわこ と言うのか。
もう、目と鼻の先だ」
政宗も目を細めて眼前を眺める。