第2章 女神の正体
政宗が殺気をみせても、動じなかった瑠璃が
こんな簡単な質問に揺れている。
「俺は男だから、小難しい結び方は
出来ないが、一応、締めたぞ。苦しくないか?」
正面に回り瑠璃を見る。
瑠璃の瞳が揺れている。
キュッと結ばれた形の良い唇
(ここは違う時代だから…きっと…)
ゆっくりと唇が開かれ、息を吐き出すように
「政宗様は…政宗様でしょうか?」
不安そうな声で瑠璃が問う。
「そうだな。
……でも、お前が敵ならば変わる」
政宗は眼を鋭く光らせて冷たい声で答える。
鋭い政宗の眼を瑠璃は黙ったまま見つめる。
それから、そっと目を瞑る。
「そうですよね、わかりました」
政宗の答えに納得した様子で、返事をすると目を開く。
その眼差しは、強く、先程までの不安はなかった。
真っ直ぐ揺るがない瞳で政宗を見据えている。
(決断力もいい)
臆する事なく政宗を見つめる瑠璃
決断の早さの中に心の強さを見た。
「私の氏は、藤原です」
「藤原…
奥州藤原は潰(つ)いえた。ならば…
京の藤原か」
(京の藤原と言えば、公家だぞ)
瑠璃の言葉に、政宗が揺れた。
「500年後、私の時代には朝廷はもうありません。
階級制度もありません。残っているのは名誉と名声だけです。
それでも、名は力を持っています」
「そう……だろうな」
「私は、京都 御左家(みこひだりけ)下冷泉
藤原。その末裔です」
政宗は耳を疑った。
組んでいた腕から力が抜ける。
「嘘を吐いてるとは思えないが、本当か?」
俄(にわか)には信じ難い話だった。
瑠璃の今の言葉が本当なら、瑠璃が
氏を口にするのを躊躇ったのは解せる事だった。
名に力が有れば、生きにくい事もしばしばある。
其れは政宗も経験していた。
時にそれは、 特に多感な幼少期には残酷だ。
政宗の反応に対して、瑠璃は、持って来た自分の
カバンを手にすると、中から何かを取り出した。