第2章 女神の正体
瑠璃は衝立(ついたて)を広げ、
裏に回るが、
ヒョコッと顔を覗かせると、
「帯の結びだけ手伝って下さい」
と言ってまた、引っ込んだ。
シュルッ と帯を解く音がする。
「着物、1人で着れるんだな」
衝立の向こうの瑠璃に話し掛ける。
「はい、着物をよく着る家でしたので、
着物は1人で着れなければなりませんでした。
あ、でも、500年後の日ノ本?では着物はあまり
着ることはありませんよ」
(それでアイツは着れなかったんだな)
安土城の姫が最初の頃、着物に苦戦して
いたのを思い出す。
「文様も知ってたな」
「習わされました」
「他に何が出来る?」
「他にですか……弓が引けます」
「それは〜、知ってる」
(あの時は、まさかと思ったが)
「あとは…お花を活ける事、お茶を点てる事、
琴が弾ける、それくらいでしょうか」
んー、と考えながら答えた。
(それくらい。って…コイツ、良い家柄だな)
今までの事と合わせれは間違いなさそうだった。
(氏(姓)を聞いてみるか)
と、考えていると、瑠璃が、スッと
衝立から出てきた。
「政宗様、帯をお願いします」
帯を差し出し、両腕をゆったりと広げる。
その女性らしい動きに、瑠璃の色香を垣間見る。
「ところで、瑠璃」
帯を巻きながら政宗は口を開いた。
「はい」
「お前、氏があるだろう。なんと言う」
政宗は わざと瑠璃を見ずに、手元を見ながら問う。
この時代、氏のない庶民は多い。
氏を持つのは位(くらい)の高い者、
いわゆる、公家、武家、そして大商家くらいだ。
「500年後の日ノ本では、全国民が氏を持っていますよ」
瑠璃は氏を聞かれたくないのか、
はぐらかす様な返答をする。
しかも、平静を装って答えたつもりだったのだろうが、
政宗には、瑠璃の声音が変わった事に気付いた。
(触れられたくなかった事だな)
「へぇ、そうなのか」
政宗は素知らぬふりで続ける。
「はい」
「それで、お前は、どこの家のなんと言う氏だ」
政宗は逃さない。
「……」
瑠璃は答えない。
「答えたくない…か」
瑠璃の無言の答えだ。