第2章 女神の正体
「せっかくだから、着替えて出掛けるか」
「でも、お待たせしてしまいますから、
このままで構いません」
「遠慮すんな。
どうせ連れて歩くなら自慢出来るほどの
女の方が良い。
着替えて、うんと綺麗にして来い」
と言うと、政宗は通りかかった女中に瑠璃の
着物を部屋に用意する様に伝える。
「瑠璃、俺が手伝ってやろうか?」
政宗が悪戯を仕掛けるみたいに、笑って瑠璃を覗き込む。
「はい、手伝って下さい」
(え?)
瑠璃が顔を赤くして断って来たら、
畳み掛けてやろうと思っていた政宗は、
困った。
困らせてやろうと思ったのが、反対に政宗が
困惑の表情を浮かべる羽目になってしまった。
部屋に連れて来られた政宗は並べられた
色とりどりの着物を見つめていた。
「どれがいいでしょうか」
(手伝えって…着物選びか…)
政宗は何だと思っていたのか。
もちろん、
着替えを手伝えると思っていた政宗は呆気に
取られた。
(ヤラレタ…と言うか、
馬鹿だな、俺…)
「政宗様の好みの物を選んで下さい」
「俺の?」
「はい、だって、一緒に出掛けるんですし、
政宗様の好みの物、着たいなっと思って」
少し恥ずかしそうにはにかんでそう言う瑠璃は
とても可愛いかった。
庭での擦れたような、冷静な態度の瑠璃は
見当たらなかった。
「俺の為にお前が選ぶのはどうだ?」
「政宗様がどんな人かも、好みも知りません。
だから、無理です」
あまりにも、キッパリと胸を張って答えるので、
思わず、プッっと吹き出した。
「何で笑うんですか?」
「いや、いや、何でもない…くくく」
笑いながらも、目の前に並ぶ着物の中から、
自分と並んでも合い、それでいて瑠璃にも
似合いそうな色の着物を手にした。
「牡丹色の宝相華文(ほうそうげもん)…
素敵です。では、着替えますね」
白く細い指先が延びて、着物を手に取る。