第11章 小田原停泊(R18)
「寒く風の強い日が続いておりましたからな。
さぞやお疲れになったでしょう。
で、どの様な症状でしようか」
政宗は瑠璃の顔を思い出す。
「体力の消耗が激しい。
顔色が悪かったから熱が出るかもしれん」
「女子(おなご)が馬に乗り、この時季に幾日も旅をするなど……
病に成れと言っているのと同じですぞ」
ここに居ない瑠璃を、政宗を通して
見ているかのように、不憫そうにする。
「許せ、止むを得ずだ。
時に、主人、俺は女だとは言っていないが」
「違いましたかな?」
「いや、大当たりだ」
「お侍様は慣れていらっしゃるのしょう。
それ程疲れた様子ではありませからな。
にも関わらず、薬湯を、と仰るなら大切な方の為かと」
手を動かしながら、にんまりと笑う主人。
「はっはっはは、ご老人にはどこに行っても、いつも、敵わないな」
一本取られた!と言う風に清々しく笑う政宗。
主人が薬草を選び調合してくれる。
それを見ながら、政宗が話す。
「源蔵と言う男がここを薦めてくれたんだが、
ヤツは何をしてる男だ」
「お侍様は源蔵に聞いて来なさったか。
ヤツは鍛冶じゃ」
「やっぱりな。
…んー、でも何でこの時間に船着場に居たんだ?」
疑問。
仕事をしている時間では無かったのか。
「源蔵は農具などは打ちたくないと言ってな…。
筋もよく、仕事ぶりも良かったのに、最近はよくブラブラしておる。
勿体無い…」
主人は残念そうに話す。
「ふーん。そりゃ、宝の持ち腐れってやつかもしれないな。勿体ねぇ」
政宗は他人ごとの様に言いつつ、出された茶に口を付けた。
途端
「ゔぇぇーー。
主人…なんだこの甘苦げぇの」
二枚目台無しの顰めっ面になる。
「滋養強壮の茶だと思い我慢ですな」
何食わぬ涼しい顔で調合を続ける主人。
(あーー、家康思い出したし……)
更に苦い顔で政宗は茶を飲み干した。