第57章 新春来風の先
「瑠璃様、ご用意は整われましたか?
お時間ですよ」
部屋の外から声をかけられ、考えを中断した。
「はい、今、出ます」
美しい着物も政宗が選んでくれた物の方が好きだった。
美しく高価な着物も、瑠璃には普段着ほどの価値もなかった。
帯の間に飾り扇子を挟み
帯をシュッッとなぞり整えると、
しなやかに立ち上がった。
愁寥(しゅうりょう)も悽悼(せいとう)も、
苛立ちの混じった疎嫌も、
カンジョウと言う全ての感情が
微塵も見られない表情に変えて、
心に蓋をして、微笑の仮面だけを被って。
障子を開けた。
※愁寥…うれいや寂しさ、
※悽悼…心がいたみ、気の抜け落ちたような悲しみ。
※疎嫌…嫌がり うとんじる。