第56章 苦しみの先
瑠璃が居なくなってからの政宗は、
気を紛らわせる為、戦にばかり明け暮れていた。
寺社勢力や一揆を制圧する紀州攻めに始まり、
大きな制圧戦に出陣。
以前から兆しのあった蘆名の内紛に首を突っ込み、
そのついでに、越後参戦。
手当たり次第だった。
「独眼竜…」
「軍神…」
烈火の如く人を斬り薙いでゆく政宗の前に、
寒凛の風のように現れた謙信が、
政宗の勢いを止める。
「「……」」
政宗は眼前の冷血な神に獰猛な脅嚇の眼を向ける。
その眼を真っ直ぐ受け止めて言った。
「塵濁としている」
「つっっ……」
謙信の感情の篭らない短く冷めた声が、
鎌鼬(鎌風)のように政宗の心を切り裂いて過ぎた。
※寒凛…ゾッとする寒さ。
※脅嚇…きょうかく/おどす威嚇する。
※塵濁…チリやホコリで濁る。俗世に濁り汚れる。
※鎌鼬…かまいたち/渦を巻いた突風により皮膚が擦れるように切れる現象。