第10章 睦月の旅路(R18)
「小十郎、お前達にはこの城を守ってもらう。
だから残ってくれ」
急に主人(あるじ)の顔になって家臣達に向き合う。
「殿」
「頼んだぞ。
それに、信長様が瑠璃を連れて来いと仰っている。
連れて行かなければ、俺の首はない」
最後の脅しは軽ーい一押しだ。
家臣達は神妙に黙り込む。
してやったりだ。
「よし、行くぞ、瑠璃」
「それでは、行って参ります。
皆様、お身体に気を付けて下さいね」
と挨拶をする瑠璃。
「瑠璃殿、冬の長旅、女の身には酷ですぞ。
くれぐれも気を付けてくだされ」
「小十郎様に心配していただけるなら、辛い旅に出るのも少しは良かったのかも知れないですね」
と、笑うと、頭を下げて馬を出す。
書簡が届いてから、留守中の事や献納品など準備をする時間があまりなく、忙しい日々だった。
1度 安土に出向くと短くて半年は城を空けなくてはならない。
先の戦で北東圏はひと段落ついているので、
心配は無いだろうが、「政宗不在」を知って
手を出して来る領もあるかも知れない。
その心積もりで、城を家臣達に任せる準備に思ったより手間取った。
そのため、新年拝賀に間に合わせるには、
余裕の無い日程で旅をせざるを得無くなった。