第2章 女神の正体
半狂乱で目を覚まして泣く、そんな
瑠璃の姿は普通の女だった。
おっとりと柔和な笑、クスッと笑った顔、
「ここが何処か」と問うた時のキョトンとした表情
慌てふためいた時の反応。
「美人だな」と言ったら顔を真っ赤にして
恥ずかしがった様子、どれも変った処は
ない女だった。
それなのに、普通でない気もする。
戦場で見た弓を射る凜とした立ち姿。
なんて美しく泣くんだろうと思った。
戦場で死にそうになっている状況も
忘れそうになった程だった。
(息を飲む ってのはあんな衝撃か……)
右肩の負傷を見抜いたこと。
城主の俺に対し、居姿を正し礼を述べた時や、
食事の所作の美しかったこと。
(一朝一夕で出来る事じゃない。ちゃんと
躾られてる。
安土城のアイツは、この時代で通用する
礼儀作法はまったく出来なかった)
何より解せなかったのは、「何者だ」と
威嚇の殺気を纏(まと)って見せた時だ。
一瞬の恐れも慄(おのの)きも見せなかった。
大の男でも、武将達が殺気を見せれば、
震え上がり慄き怯えるのに、ただの女なら
口がきけるなど 有り得ないはずだ。
それなのに、怯えるどころか ニッコリと
微笑んで返答をした。
(平和過ぎて、頭がお花畑のアイツと同じで、
殺気にも気付かなかったとか?
……イヤ、違うな……)
気付いていながら、平然としている
ようにしか見えなかった。
500年後の日ノ本から来たのは、
持ち物や格好で間違いないと思われるが、
安土城にいる同じく500年後から来た姫とは、
少し感じが違っていて
手放しで信用出来ない思いもあった。
その為、瑠璃をどうすればいいかわからなかった。
(秀吉の気持ちってこんなだったのか?)
世話焼きの秀吉を思い出して苦笑する。
(次目に覚ましたら、何者か直接きくか……
色々試しながらもう少し様子をみるか……)
決め兼ねて ふぅ と息を吐いて空を見上げた。