第8章 神無月の決断
「大好きな兄上より、大切か?」
卑怯な問い方と解っていても、そうとしか言えなかった政宗。
「え?」
政宗の問いに、キョトンとした表情の瑠璃だったが、
「別れてしまった人より、
今、ここに居る人の方が大切でしょう」
当たり前のように言って笑う。
そして、
「私、自由に生きていいんでしよ?政宗と」
と、質問とも確認とも取れるふうに、
政宗に尋ねる。
瑠璃が自分に好意を持って、大切に想っていてくれる事は、もう、分かっていた。
いや、分かりきっていた。
自惚れてもいいくらいには。
今までも、早い段階でそう感じ、そう確信していた。
(俺はーーー)
未来から来て、自分を救ってくれた。
最初は興味本位で関わって住まわせた。
美しい容姿で、高い品位と教養で、
その頭脳で、したたかに生きているかの
ようで、脆く、傷みを抱え、もがきながら、
真っ直ぐで、純粋で優しかった。
だから、本当の笑顔と心が見たかった。
(俺だけに見せて欲しいと思った)
恋だとは思わなかった。
(光秀にも、他の誰にも渡せない位
俺の物だとは思ってた)
その時、その感情の名は判明(わからな)かった。
(でも、今はわかる…あの時、
すでに落ちてたんだ……)
あの日、あの時
涙を流した女神に見えた。
戦場で、自分が流せない、
悲しみ苦しみの涙を流してくれた時、
命と一緒に心も救われたと感じた。
だから、応えるしかない。
だから、応えよう。
「瑠璃、俺と生きてくれ」
瑠璃を抱きしめる。
「誰にも、どこにもやらない。
俺の物だ、瑠璃」
そう言うと、瑠璃が背中に回していた腕に
ギュッと力を込めた。
「政宗、ありがとう……」
腕の中で瑠璃の小さな声が
「ずっと一緒に…」
と言った。