第8章 神無月の決断
「それー……、
前に光秀様に聞かれました。
家に帰りたいのか?って」
可笑しそうに目を細めて笑う。
(は?光秀が?いつ…)
光秀の言った「帰りたいのか」と、
今、政宗が問う「帰りたいのか」には
重みに少しばかり差があるのだが……
「その時は『分かりません』と答えました。
恥ずかしながら、私の家は父母や親族達と気軽に笑い合えるような家ではなかったのです。
家名があると言うのは、なかなか難しいですね」
と、自嘲気味に瑠璃は笑う。
政宗は黙って聞いている。
「父はともかく、母は頭の切れる人で、
何を使っても、家を、守ろうとしてました。
母の中では私も駒の一つでしたでしょう。
私には逆らう事は出来ませんでした。
物心ついた頃には、母は絶対的存在でした」
話ながら、家族の事を思い出しつつ、
目の前で燃える焚火の炎を見ている。
そして、1人笑い出す。
「ふふふ、絶対服従?侍従関係?
窮屈で寂しい家族でした。
そんな家に帰りたいかって……
分からないでしょう?
光秀様に聞かれた時は、分かりませんでした。」
(だから、それ、いつ聞かれたんだよ!
俺は知らないぞっ)
政宗の胸中露知らず、瑠璃は淡々と続ける。